私の財布には古代ギリシャの伝説的吟遊詩人が住んでいます

ギリシャの通貨がユーロになる以前、円やドルのようにギリシャでは「ドラクマ」が使われていました。1円がだいたい2ドラクマほどでした。
ギリシャの通貨の裏にはギリシャ人の顔が彫られていましたが、それがアリストテレスやアレキサンダー大王だったりするのがギリシャらしくて私は好きでした。そういえばアレキサンダー大王は今でもギリシャ人が尊敬する人の1人だそうですよ。

50ドラクマ硬貨の裏にはホメロスという人の顔が彫られていました。ホメロスはアリストテレスよりも古い紀元前8世紀の吟遊詩人です。彼の作品として名高い叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』はギリシャの古典文学として大変に有名です。日本での知名度は高くありませんが、ヨーロッパや英語圏の国々では彼の名前や作品を知らない人はいないでしょう。

ホメロスは吟遊詩人として旅をしながら、各地でトロイア戦争を歌った叙事詩を人々に聞かせてきました。ギリシャ連合軍とトロイア(今のトルコにあった都市)との戦争を描いた物語は、非常に長いだけでなく登場人物も多くて複雑です。それゆえ彼の二大作は日本語にも翻訳されて出版されていますが、簡単に読める作品ではありません。
しかしホメロスはその戦争の流れをすべて把握し、ひとつの話しとしてまとめ上げて歌っていました。もちろん書かれた台本を見ながら歌ったのではありません。想像もできないほどの記憶力の持ち主だったことでしょう。

ホメロスの死後はホメリダイと呼ばれた吟遊詩人の集団が活躍したそうです。しかしホメリダイが本当に存在したのか、あるいはただの伝説なのかはっきりしていません。
またそもそもホメロスという人が実在したのかさえも分かっていないのです。いまだに謎に包まれた吟遊詩人ホメロス。それなのに一昔前までは彼がこのような顔をしていましたと硬貨に彫られて国中で使われていたとはおもしろい話だと思いませんか?
硬貨に彫られたホメロス像がどこかにあるのだと思いますが、私はホメロスだという彫刻をいくつか見たことがあります。それらは雰囲気は同じでも、硬貨に選ばれた像とは少しずつ違っていました。

ギリシャを旅行した時にホメロスの顔が彫られた50ドラクマを手にしましたが、あの伝説の人かと思うともったいなくて使えませんでした。そしてたくさんの50ドラクマ硬貨を持ち帰りました。そのせいで我が家にはホメロスが何人もいるのですよ。